【解析力学】ポアソン括弧の満たす関係「ヤコビ恒等式」の証明~証明の過程全部載せ~

解析力学

こんにちは!

この記事では、ポアソン括弧の満たす関係式である「ヤコビ恒等式」を証明します。

ポアソン括弧の定義から、ヤコビ恒等式の証明まで、計算過程をすべて載せましたので、ぜひ最後までご覧ください!

ポアソン括弧の定義

2つの任意関数\(f=f(q,p,t),\,g=g(q,p,t)\)に対して、ポアソン括弧を

\begin{align}
\{f,g\}\equiv\sum_{i=1}^{N}\left(\frac{\partial f}{\partial q_i}\frac{\partial g}{\partial p_i}-\frac{\partial f}{\partial p_i}\frac{\partial g}{\partial q_i}\right) \tag{1}
\end{align}

で定義します。ここで、\(N\)は系の自由度です。

ヤコビ恒等式

ポアソン括弧は次の関係式を満たします。

\begin{align}
\{f,\{g,h\}\}+\{g,\{h,f\}\}+\{h,\{f,g\}\}=0 \tag{2}
\end{align}

これをヤコビ恒等式といいます。

これを示しましょう!

ヤコビ恒等式の証明:準備

まず、\(N\)個の正準座標\(q_i\)と\(N\)個の正準運動量\(p_i\)を合わせて、\(2N\)個の変数\(\xi_I\)をつくりましょう。

つまり、

\begin{align}
(\xi_1,\dots,\xi_N,\xi_{N+1},\dots,\xi_{2N})=(q_1,\dots,q_N,p_1,\dots,p_N) \tag{3}
\end{align}

とします。

\(I=1,\dots,2N\)であることに注意しましょう。(一方で、\(i=1,\dots,N\)です!)

この変数\(\xi_I\)を用いて、ポアソン括弧(1)は、

\begin{align}
\{f,g\}=\sum_{I,J=1}^{2N}\Omega_{IJ}\frac{\partial f}{\partial \xi_I}\frac{\partial g}{\partial \xi_J}=\Omega_{IJ}\partial_I f\partial_J g \tag{4}
\end{align}

とかけます。(\(\partial_I\equiv\frac{\partial}{\partial \xi_I}\)と略記します。)

ここに現れる\(\Omega_{IJ}\)の説明をしましょう。

これは、

\begin{align}
\Omega_{i,N+j}=\delta_{ij},\quad\Omega_{N+i,j}=-\delta_{ij},\quad\Omega_{i,j}=\Omega_{N+i,N+j}=0\quad(i,j=1,\dots,N) \tag{5}
\end{align}

で定義される量です。

行列表示すると、

\begin{align}
\Omega=
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{0} & \boldsymbol{1} \\ -\boldsymbol{1} & \boldsymbol{0}
\end{pmatrix} \tag{6}
\end{align}

で表される\(2N\times 2N\)行列になります。ここで、\(\boldsymbol{0}\)は\(N\times N\)ゼロ行列、\(\boldsymbol{1}\)は\(N\times N\)単位行列です。

証明において重要な性質として、\(\Omega\)は反対称性をもつことに注意しましょう!

\begin{align}
\Omega_{IJ}=-\Omega_{JI},\quad \Omega=-\Omega^{T} \tag{7}
\end{align}

\(N=1\)のとき、(4)の右辺は、

\begin{align}
\Omega_{IJ}\partial_I f\partial_J g
&=\sum_{I,J=1}^{2}\Omega_{IJ}\frac{\partial f}{\partial \xi_I}\frac{\partial g}{\partial \xi_J}\\
&=\Omega_{12}\frac{\partial f}{\partial \xi_1}\frac{\partial g}{\partial \xi_2}+\Omega_{21}\frac{\partial f}{\partial \xi_2}\frac{\partial g}{\partial \xi_1}\\
&=\frac{\partial f}{\partial q_1}\frac{\partial g}{\partial p_1}-\frac{\partial f}{\partial p_1}\frac{\partial g}{\partial q_1}\\
&=\{f,g\} \tag{8}
\end{align}

となり、確かにポアソン括弧に等しいことがわかります。

ヤコビ恒等式の証明:本編

本編なんて大げさに書きましたが、ここまで理解できれば、(4)と(7)を用いてひたすら計算するだけです!

まず、\(\{f,\{g,h\}\}\)を計算しましょう。

\begin{align}
\{f,\{g,h\}\}
&=\Omega_{IJ}\partial_I f\partial_J\{g,h\}\\
&=\Omega_{IJ}\partial_I f\partial_J(\Omega_{KL}\partial_K g\partial_L h)\\
&=\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I f\partial_J\partial_K g\partial_L h+\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I f\partial_K g\partial_J\partial_L h \tag{9}
\end{align}

1つ目の等号では\(f\)と\(\{g,h\}\)のポアソン括弧を(4)を用いてかき、2つ目の等号では\(\{g,h\}\)を(4)で表しました。3つ目の等号では、\(\partial_J\)を\(\partial_K g\)と\(\partial_L h\)にそれぞれ作用させました(積の微分)。

ヤコビ恒等式の左辺の残りの2項は、この結果で\(f,g,h\)を巡回置換させたものです。

よって、

\begin{align}
\{f,\{g,h\}\}+\{g,\{h,f\}\}+\{h,\{f,g\}\}
&=\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I f\partial_J\partial_K g\partial_L h \tag{Y1}\\
&\quad+\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I f\partial_K g\partial_J\partial_L h \tag{Y2}\\
&\quad+\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I g\partial_J\partial_K h\partial_L f \tag{Y3}\\
&\quad+\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I g\partial_K h\partial_J\partial_L f \tag{Y4}\\
&\quad+\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I h\partial_J\partial_K f\partial_L g \tag{Y5}\\
&\quad+\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I h\partial_K f\partial_J\partial_L g \tag{Y6}\\
\end{align}

とかけます。

この右辺の各項には、関数\(f,g,h\)がそれぞれ2階微分された項が2つずつあるので、それらを組にして考えます。

つまり、(Y1)と(Y6)、(Y2)と(Y3)、(Y4)と(Y5)の組を考えます。

結論としては、

\begin{align}
\text{(Y6)}=-\text{(Y1)},\quad\text{(Y3)}=-\text{(Y2)},\quad\text{(Y5)}=-\text{(Y4)} \tag{10}
\end{align}

となり、ヤコビ恒等式が示されます。

(10)の計算は以下にまとめたので、必要な方のみ参照してください!

証明の補足計算

まず、\(\text{(Y6)}=-\text{(Y1)}\)を示します。

\begin{align}
\text{(Y6)}
&=\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I h\partial_K f\partial_J\partial_L g \\
&=\color{red}{\Omega_{LK}}\Omega_{IJ}\partial_L h\partial_I f\color{blue}{\partial_K\partial_J} g \\
&=\color{red}{-\Omega_{KL}}\Omega_{IJ}\partial_L h\partial_I f\color{blue}{\partial_J\partial_K} g \\
&=-\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I f\partial_J\partial_K g\partial_L h \\
&=-\text{(Y1)}
\end{align}

2つ目の等号では、ダミー添字の付け替え\(K\to I\to L\to J\to K\)を行いました。3つ目の等号では、\(\Omega\)の反対称性と偏微分が可換であることを用いました。4つ目の等号は順番を整理しただけです。

次に、\(\text{(Y3)}=-\text{(Y2)}\)を示します。

\begin{align}
\text{(Y3)}
&=\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I g\partial_J\partial_K h\partial_L f \\
&=\Omega_{KL}\color{red}{\Omega_{JI}}\partial_K g\color{blue}{\partial_L\partial_J} h\partial_I f \\
&=\Omega_{KL}\color{red}{(-\Omega_{IJ})}\partial_K g\color{blue}{\partial_J\partial_L} h\partial_I f \\
&=-\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I f\partial_K g\partial_J\partial_L h \\
&=-\text{(Y2)}
\end{align}

2つ目の等号では、ダミー添字の付け替え\(K\to J\to L\to I\to K\)を行いました。3、4つ目の等号では先ほどと同じ操作をしました。

最後に、\(\text{(Y5)}=-\text{(Y4)}\)を示します。

\begin{align}
\text{(Y5)}
&=\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I h\partial_J\partial_K f\partial_L g \\
&=\Omega_{KL}\color{red}{\Omega_{JI}}\partial_K h\color{blue}{\partial_L\partial_J} f\partial_I g \\
&=\Omega_{KL}\color{red}{(-\Omega_{IJ})}\partial_K h\color{blue}{\partial_J\partial_L} f\partial_I g \\
&=-\Omega_{IJ}\Omega_{KL}\partial_I g\partial_K h\partial_J\partial_L f \\
&=-\text{(Y4)}
\end{align}

2つ目の等号では、ダミー添字の付け替え\(K\to J\to L\to I\to K\)を行いました。3、4つ目の等号では先ほどと同じ操作をしました。

これで補足計算を終わります。

まとめ

この記事では、ポアソン括弧の満たす関係式「ヤコビ恒等式」の証明を行いました!

計算過程をすべて載せたので、ぜひ自分の手で一度は証明してみてはいかがでしょうか?

ポアソン括弧は量子力学における交換関係に対応するのですが、交換関係についてのヤコビ恒等式は驚くほど簡単に示せます笑(3つの行列の積を計算するだけ)

この難易度の落差に当時びっくりしました笑

それでは!

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